
今回は、建築設計の仕事についてのお話です。




建築学科の学生や、建築業界への就職を考えている人からよく聞かれる質問です。
実は、この3つはどれも「設計」という仕事でありながら、仕事内容も働き方も、設計に対する考え方も大きく異なります。
私自身、ゼネコン設計部で大型プロジェクトの設計業務に携わる中で、組織設計事務所やアトリエ系建築設計事務所と協働する機会が数多くありました。
だからこそ感じるのは、「どこが一番良いか」ではなく、「どんな設計者になりたいか」で選ぶべきということです。
この記事では、それぞれの特徴やメリット・デメリット、向いている人まで、実務経験も交えながら分かりやすく解説します。
アトリエ系事務所・組織設計事務所・ゼネコン設計部の違いを一覧で比較

就職活動では情報量が多く、違いが分かりにくいものです。
まずは全体像を比較してみましょう。
| アトリエ系事務所 | 組織設計事務所 | ゼネコン設計部 | |
| 扱う案件 | 住宅・店舗・商業施設など | 学校・病院・公共施設など | 超高層ビル・再開発・物流施設・アリーナなど |
| 建物規模 | 小規模 | 中規模 | 大規模 |
| デザインの自由さ | ★★★★★ | ★★★★☆ | ★★★☆☆ |
| 施工との距離 | ★★★☆☆ | ★★★☆☆ | ★★★★★ |
| 作業量 | ★★★★★ | ★★★★★ | ★★★★★ |
| 年収 | ★★★☆☆ | ★★★★☆ | ★★★★★ |
| 福利厚生 | ★★☆☆☆ | ★★★☆☆ | ★★★★★ |
| 独立しやすさ | ★★★★★ | ★★★★☆ | ★★★☆☆ |
もちろん会社ごとの差はありますが、おおよその傾向はこのようになります。
それでは、それぞれ詳しく見ていきましょう。
ゼネコン設計部|大規模建築をつくる設計者

ゼネコン設計部とは?
ゼネコン設計部は、建物を「設計して終わり」ではなく、「施工して完成させるところまで」を見据えて仕事をする設計部門です。
超高層ビルや再開発、研究施設、工場、大規模物流施設など、街のランドマークになるような建築物を担当することも珍しくありません。
私自身、このスケール感に魅力を感じてゼネコン設計部を選びました。
「この建物、自分も設計に関わった。」
そんな経験ができるのは、大きなやりがいの一つです。
ゼネコン設計部のメリット
① 大規模プロジェクトに携われる
建築学生の頃は図面でしか見たことがなかったような建物を、自分が設計する立場になることがあります。
都市再開発や超高層ビルなど、一人では到底つくれない建築にチームで挑む経験はゼネコンならではです。
② 設計と施工が近い
最大の特徴はここです。
施工部門が同じ会社にあるため、現場が始まってからも設計内容を細かく調整できます。
実際の現場では、
・納まりの改善
・施工手順の変更
・材料変更
などが発生します。 設計者も施工管理担当者と打合せを重ねながら、より良い建物になるよう設計をブラッシュアップしていきます。
③ 社内技術を活かした提案ができる
ネコンには独自の施工技術や工法があります。
それらを設計段階から活用できるため、
「この工法ならもっと大空間を実現できる」
「施工性を保ちながら意匠性も向上できる」 という提案も可能になります。
④ 福利厚生・教育制度が充実
資格取得支援や研修制度は非常に充実しています。
また近年は建設業界全体でベースアップが進み、給与水準も上昇しています。
働き方改革も進み、私が入社した頃と比べても残業時間はかなり改善されていると感じています。
ゼネコン設計部のデメリット
一方で、華やかな仕事ばかりではありません。
大規模プロジェクトでは若手は一部分だけ担当するケースも多く、建物全体を把握するまで時間がかかります。
また設計だけで完結する仕事ではないため、施工管理部門との調整や社内打合せも非常に多くなります。
工事中にはVE(Value Engineering)やCD(Cost Down)の検討にも参加します。
デザインだけを追求するのではなく、
「施工できるか」
「利益が出るか」
という視点も常に求められます。
さらに近年は図面作成や申請業務をアウトソーシングするケースも増えています。
業務効率化という面では必要な仕組みですが、自分で図面を描く経験が少なくなるため、若いうちは意識して図面を読み込み、納まりを理解する姿勢が重要だと私は感じています。
こんな人におすすめ
・大規模建築に携わりたい
・再開発やランドマークをつくりたい
・安定した給与・福利厚生を重視したい
・施工まで含めて建築を学びたい
組織設計事務所|設計そのものを極めたい人へ

組織設計事務所とは?
・成果物は設計図書
・中規模案件が中心
・一人当たりの担当件数が多い
・図面を描く力が身に付きやすい
・施工会社との調整は会社間になる
・デザインの自由度は比較的高い
メリット
デメリット
こんな人におすすめ
設計実務を幅広く経験したい人に向いています。
アトリエ系建築設計事務所|建築家を目指すなら

アトリエ系建築設計事務所とは?
メリット
・有名建築家のもとで学べる
・住宅設計を深く経験できる
・少人数なので設計全体を経験できる
・独立につながりやすい
デメリット
・給与は比較的低い
・業務量は非常に多い
・プライベートとの両立は簡単ではない
こんな人におすすめ
・建築家になりたい
・独立を目指している
・作品づくりが好き
私が感じる「一番の違い」

就職活動では「どこが一番いい会社なのか」を考えがちです。
しかし、実際に働いてみて感じるのは、「会社の優劣」ではなく「価値観の違い」です。
例えば私は、大規模プロジェクトに多職種のメンバーと取り組み、完成まで見届けられるゼネコン設計部の仕事に魅力を感じています。
一方で、「自分だけの建築をつくりたい」という人にとっては、アトリエ系設計事務所の方が充実したキャリアになるでしょう。
つまり、自分がどんな建築に携わりたいのか、どんな設計者になりたいのかが、就職先選びで最も大切な軸になります。
建築業界は「設計」だけではない
最後に伝えたいことがあります。
建築学科にいると、どうしても「設計職」がゴールのように感じてしまいます。
しかし実際の建築業界には、
・施工管理
・構造設計
・設備設計
・積算
・BIMマネジャー
・デベロッパー
・行政
・建材メーカー
・CM(コンストラクション・マネジメント)
など、建築に関わる仕事は数え切れないほどあります。
「設計が向いていない=建築に向いていない」ではありません。
大切なのは、自分がどんな働き方をしたいのかを知ることです。
そのためにも、学生のうちから説明会やインターンシップ、OB・OG訪問などを通じて、多くの働き方に触れてみてください。
その経験は、きっと自分に合ったキャリアを見つけるための大きなヒントになるはずです。
おすすめ書籍
『新米建築士の教科書』
設計事務所・工務店の若手建築士・設計士が、一人前になるための指南が示された書籍です。
社会人だけでなく、建築学生にもおすすめです。
『建築家になりたい君へ』
建築家の隈研吾さんが執筆された、建築家を目指す10代の若者に向けたメッセージがまとめられた書籍です。
まとめ
アトリエ系建築設計事務所、組織設計事務所、ゼネコン設計部は、それぞれ異なる魅力を持っています。
重要なのは、「どこが一番良いか」を探すことではなく、「自分はどんな建築人生を歩みたいか」を考えることです。
この記事が、これから建築業界を目指す皆さんの進路選択の参考になれば幸いです。