私も学生の時はエスキスにうまく臨めず、中々うまく伝えることができず、紆余曲折した経験があります。
今回は私の設計作業や、TAの経験を踏まえた、設計課題のエスキスへの理想の臨み方をお届けしたいと思います。
エスキスがどんなものかよくわからない学生も、これを見て参考にしてくれればと思います。
実務や資格試験でのエスキスとは少し異なりますので、誤認しないようお願いします。
設計課題のエスキスとは?
エスキス【esquisse フランス】下絵。スケッチ。
Web広辞苑より
「エスキス」とはフランス語「esquisse」に由来します。
広辞苑では「スケッチ」「下絵」という意味を持つと記されています。
しかし、建築学科では複数のニュアンスで使用することが多く、大概は
- 設計案の修正、加筆
- 講師による設計課題のチェック
- スケッチの練習
という3つの意味で使います。
「先生にエスキスをもらいに行く」「来週のエスキスの準備をしないと、、」
といった感じです。
まれに「先生にエスキスを持っていく」というように、「自分の設計アイデア」という意味で使用する学生がいますが、そのような使い方は建築界ではあまり使用しません。
エスキスのための作業の進め方
「じゃあ来週のこの時間にエスキスするから、準備しておいてね」
大概の講師の方は、こう言い放って部屋を後にします。
準備をしろと言われても、その直後からいきなり図面を描きだすことができる人はそうそういないはずです。
エスキス準備を効率的に進めるには、作業の細分化が大切になってきます。
大きく設計アイデアを作るまでには、以下のステップがあります。
- 「思考」・・・設計のアイデア、自分なりの考えをまとめる
- 「図面化」・・スケールを伴った線を描き、建築物を構築する
- 「表現」・・・効率的に人に伝わるような図面や図、記号、文字を付け加える
このように、大きく細分化し、作業やステップを明確化しておくことです。
「思考」
自分の設計提案の押しとなるアイデアや、建築物全体に通じる設計意図を考えるプロセスです。
- 敷地調査 →活用部分と現状の問題を可視化
- 用途分析 →提案物の社会的な問題の調査
- 参考事例 →実際にデザインされた事例、同じ用途のプロジェクトの解決方法
こういった作業を通して、課題に最適な自分なりの解法・アイデア・デザインを見つけだします。
いつまでたってもコンセプトばかり悩んでいる学生をたまに見かけますが、ある程度の見切りをつけて形を考える作業に移ることで見えてくることもあります。
設計アイデアというものは、何度も修正を加えていくことでより良いものになっていきます。ある程度の区切りを見つけたらそれを形に書き出し、指摘を踏まえてまたこの作業を繰り返すことが自分の設計力を鍛えるトレーニングとなります。
情報収集については以下の記事が参考になると思います。
「図面化」
自分が考えたアイデアをもとに、求められる部屋、面積を考慮しながら図面を描いていく作業です。
- ゾーニング・動線計画 →大まかな部屋の位置の検討
- 構造・マテリアルの検討 →鉄骨orRC、仕上げの検討
稀にアイデアが固まってから構造やマテリアルを考える輩がいますが、後付けの検討はあまり良いものではありません。序盤のエスキスでも、聞かれたら答えられる程度には検討しておきましょう。
「表現」
どの図面(平面図・断面図・立面図)を見せることでうまく伝えることができるのか、どれくらいの量、アイデアがあれば自分の考えが分かってもらえるかを検討するプロセスです。
- 図面の着色
- 複数案の用意
- 模型・・パースの準備
必要に応じて複数の案を用意したり、図面に着色したり、模型を準備したり、パースを描いたりする作業が発生します。
ビジュアルテクニックについては、以下の記事が参考になると思います。
アイデアの伝え方
設計までのプロセスをなぞっていきましたが、実際のエスキスではどのように伝えればよいのでしょうか。
準備物への心がけ
先程挙げた、図面やパース、全体像が分かるモデルデータ、スケッチ等、時間が許す限りの作業量を投じましょう。「あるもの全部」が理想です。
そして大切なのは、「自分が何を考えているのか」がわかるものを用意するという事です。
設計モチベーションの高い学生であっても、これを意識できていない人は意外と多いです。
エスキスはいわば、講師を前にした「小さなプレゼン」です。
自分が満足すればよいわけではありません。
ひどいケースでは、講師に小さなアイデア手帳を開き、10分間永遠と自分のかんがえていることを話し続ける人もいました。
ミッションをこなすように無意識に言われた図面を用意していると、自分の主観で所要図面やパースを描いてしまいがちです。
「自分のアイデアは、果たしてこの図面だけを見せることで伝わるのか?」
「アイレベルで見上げるパースを見せればそれでよいのか?」
今一度考えてみることをおすすめします。
見方を変えることで、自分のアイデアのポイントや、重点的に手を加えないといけない部分が浮かび上がってくるはずです。
このように、エスキスの段階からプレゼンを意識することで、完成版のプレゼンシートを見越したマネジメントも同時に行うことができます。
「最終のプレゼン作業で図面を増やせばいいや」と、後付けのような最終成果物を作ることも減ってきます。
そして、必ず前回からアップデートしたものを用意するという事も大切です。講師からすると、前回のものを持ってこられても、新しい議論は生まれませんし、作業の成果を確認することができません。
アイデアを口だけで伝えない
このことを意識するだけで、格段に手を動かす量とスピードがアップします。
この方法は私の学生時代の経験に裏付けされた手法です。
「アイデアを見せるときは何もしゃべるな。伝えたいことは全部図面に書き込め」
これは某組織設計事務所の方が外部講師として設計課題を担当されたとき、最初に言われた言葉です。
今思うとかなり極端な言い方をしているとは思いますが、エスキスだけでなく、実務での打ち合わせにも通ずる考えだと私は思っています。
私が設計課題のTAをやっていて感じたことが、考えるところで思考が止まって、相手に伝える作業が十分でない学生が多いという事です。
図面を書いてこない学生ほどエスキスでよくしゃべりますが、口を使ってしまうとなんとでも言い換えられるのです。
つまり口で話すことは「誤魔化し」とも捉えられるわけです。
アイデアやコンセプトをすべて図面に書きこみ、何も口で説明しなくても伝わるレベルの情報量と密度を図面に集約させることで、より効率的に講師にアイデアを伝え、より大きなリターンや深い議論を生むことができます。
本年度の大学構内立ち入り禁止の影響で、オンラインによる設計課題授業に切り替えている大学も多く、例年とは勝手が異なるケースはあると思います。しかしオンラインであっても、この考え方はきっと役に立つと思っています。
エスキスの際に参考になる書籍
エスキスの流れや、アイデアが形になるまでのプロセスを学ぶための書籍として、GAが刊行している「PLOTシリーズ」をおすすめします。
著名な建築家の設計理念や事務所の雰囲気も知ることができるので、好みの建築家がシリーズ化されているのであれば、1冊持っておくことをおすすめします。
まとめ
- 設計プロセスを細分化し、作業を明確化する
- 相手に伝わる」ものを用意する
- アイデアを口だけで伝えない
こうまとめてみると、途中過程を報告する作業とはいえ、結構手間をかける必要があることが分かります。
設計課題に取り組む誰もが
「あ~明日エスキス行きたくない~」
と思ったことがあるはずです。
この手間なプロセスとメンタルを乗り越えていくことで、設計力は鍛えられていきます。
最後まで投げ出さず、しっかり自分と向き合いましょうね。