建築

【書評・感想】『ひとの住処』/隈研吾

こんにちは。Nora(ノラ)です。2冊目の書評記事をお届けします。

今回はこちら

隈研吾さんの『ひとの住処』です。

今年の2月に発売された書籍になります。
隈さんの本は本書に限らず、隈さんが書く本は比較的読みやすい構成になっているので、建築業界以外の方や、これから建築を勉強する新入生にもおすすめといえます。

『ひとの住処』基本情報

『ひとの住処』著者プロフィール

隈研吾

1954年生。東京大学建築学科大学院修了。1990年隈研吾建築都市設計事務所設立。現在、東京大学教授。1964年東京オリンピック時に見た丹下健三の代々木屋内競技場に衝撃を受け、幼少期より建築家を目指す。大学では、原広司、内田祥哉に師事し、大学院時代に、アフリカのサハラ砂漠を横断し、集落の調査を行い、集落の美と力にめざめる。コロンビア大学客員研究員を経て、1990年、隈研吾建築都市設計事務所を設立。これまで20か国を超す国々で建築を設計し、(日本建築学会賞、フィンランドより国際木の建築賞、イタリアより国際石の建築賞、他)、国内外で様々な賞を受けている。その土地の環境、文化に溶け込む建築を目指し、ヒューマンスケールのやさしく、やわらかなデザインを提案している。また、コンクリートや鉄に代わる新しい素材の探求を通じて、工業化社会の後の建築のあり方を追求している。

参考


『ひとの住処』の刊行にあたり、事務所のページにはこのようなコメントがありました。

2つの本を書下ろしで書いた。国立競技場の設計に携わっていた、忙しい時期に、よく2冊も本を書く時間を見付けられたものだと自分でも感心するが、この時期だからこそ、本を書くことができたのだということもできる。すなわち「新国立」といういままでの人生で味わったことがないようなプレッシャーが、僕の背中を押して、この2冊を書かせたのである。「新国立」という事件が人生で起きなければ、この2冊の本は生まれなかったであろう。
<中略>
 もう1冊は、新潮社から出る『ひとの住処』で、僕が書き続けてきた自伝的書物の中の決定版となるだろう。1964、1985、2020という3つの補助線を引くと、僕の人生と僕の方法が想像していた以上にクリアに見えてきた。その意味で、2020だからこそ、2020年という補助線を獲得したからこそ、この本が書けたわけである。

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もう一つの書籍「点・線・面」の書評はこちょらで書いています。

国立競技場スタジアムの完成を経て、建築業界以外からも引っ張りだこの隈さんですが、この最も忙しい時期に書かれたもののようです。

『ひとの住処』概要

1964東京オリンピックと2020東京オリンピック
この2つの出来事を線で結ぶことで見えてくる日本の建築と社会の移り変わり、そしてこれからの社会についての持論からなる構成でした。

64年の東京での、時代のニーズを体現した丹下健三の代々木体育館に感銘を受け、
しかし70年の大阪万博では工業建築の空虚さ、それに依存する日本社会の現実に落胆してしまう。
偶然居合わせたアメリカのプラザ合意、その後のバブル崩壊と事務所独立。
そして紆余曲折を経た末の梼原の町との出会い。

建築書としてではなく文庫本という形で建築を通して日本を振り返り、その時の状況や現在に通じる隈さんの建築の考え方を述べています。

建設業界と武家社会

「当時の建設業界は江戸時代の武家社会のようだ。戦国時代は実際に武士を必要としていたが、平和な江戸時代は武士を必要としない。しかし幕府は功績のあった武士階級に特権を与え、威張り続けることができた。」


「日本社会は一貫して温情社会であり、過去の功績、特権は尊重され守られ続ける。」
という言い回しで、戦後の建築を必要としていた工業社会が80年代以降もずるずると建設業に依存した日本社会を語っていたことが非常に印象的でした。

個人的な話ですが、隈さんは以前から自分の好きな建築家の一人でしたので、著者の本は一通り目を通しています。
本書は隈さんの社会論的な部分にフォーカスを当ててまとめられているので、そのあたりに興味がある人は読んでみるといいかもしれません。

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