こんにちは。Nora(ノラ)です。
今回は落合陽一さんの『2030年の世界地図帳』の書評をお届けします。
研究者として、アーティストとして、そして情報メディアとあらゆる分野で引っ張りだこの落合陽一さんの最新書籍となります。
他にも様々な書評記事を書いています。よければご覧ください。
『2030年の世界地図帳』基本情報
『2030年の世界地図帳』 著者:落合陽一 発売日:2019年11月
落合さんの自身12冊目となる書籍です。
落合さんの本はどれも非常にためになるものが多いです。春から大学に進学した新入生、就活生、新社会人といった未来を見据える立場の方はもちろん、責任の伴う立場にいる人、家事従事者でも、これからの社会をイメージする上で、一度は落合さんの著書を読んでおいたほうがいいと思います。
頭の回転が速すぎて何を言っているのか理解できない時もある落合さんですが、本書に関してはあらゆる層をターゲットにしているため、比較的読みやすい内容となっています。
個人的なおすすめの他の著書は、『日本再考戦略』と『日本進化論』です。日本というスケールで見た世界と比較した国の社会問題を、落合さんの研究専門分野の話を軽く交えながら解決策とともに論じている本になります。
合わせて読むと理解が深まると思います。
また、色んなサイトで落合さんのおすすめ本が紹介されています。
私は有名ブロガーであるTsuzukiさんのこちらのページが参考になりました。
『2030年の世界地図帳』著者紹介 落合陽一
落合陽一
メディアアーティスト。1987年生まれ。東京大学大学院学際情報楽譜博士課程修了(学術情報学府初の早期修了)、博士(学際情報学)。筑波大学図書館情報メディア系准教授・デジタルネイチャー推進戦略研究基盤代表・JST CREST xDiversityプロジェクト研究代表。大阪芸術大学客員教授、デジタルハリウッド大学客員教授。2015年World Technology Award、2016年Prix Electronica、EUよりSTARTS Prizeを受賞。Larval Virtual Award受賞、スイス・ザンガレンシンポジウムよりLeaders of Tomorrowに選出されるなど、国内外で受賞多数。専門は計算機ホログラム、デジタルファブリケーション、HCLおよび計算機技術を用いた応用領域(VR、視覚触覚ディスプレイ、自動運転や身体制御)の探求。個展として「Image and Matter(マレーシア・クアラルンプール、2016)」や「Imago et Materia(東京・六本木、2017)」、「落合陽一、山紫水明∽事事無碍∽計算機自然(東京・表参道、2018)」。「質量への憧景(東京・品川、2019)」など展覧会多数。近著として『日本進化論』(SBクリエイティブ)、『デジタルネイチャー』(PLANETS)、写真集『質量への憧景』(amana)など。オンラインサロン『落合陽一塾』では日々様々なトピックでのディスカッションや学びを続けている。
2030年の世界地図帳 巻末
落合陽一さんの公式ホームページでは、彼が行っている活動、研究を見ることができます。
『2030年の世界地図帳』全体構成
本書は以下の構成となっています。
- はじめに
- 1章 2030年の未来と4つのデジタル・イデオロギー
- 2章 「貧困」「格差」は解決できるのか?-サードウェーブ・デジタルと、個人の可能性
- 3章 地球と人間の関係が変わる時代の「環境」問題ーGAFAMは「環境」と「資本主義」の対立を超えるか
- 4章 SDGsとヨーロッパの時代ーこれからの日本の居場所を考える
- おわりに
本書では、世界が今一体となって取り組み始めている「SDGs」について、その指標と各国の成長予測をもとに2030年に予想される世界各国の立ち位置や、その中での日本が取り組むべき課題について、「テクノロジー」と「地政学」と「データ」の観点から述べられています。
GDPや高齢化の進捗具合といった指標を、2016年と2030年とで比較した世界地図が各章の最初に記載されており、今後の世界情勢が一目で認識できるようなレイアウトとなっています。
概要
「SDGs」とは
「SDGs」と言われても、日本に住んでいてぱっとイメージのつく人はあまり多くはいないのではないでしょうか?
SDGsとは、正式名称「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」のことを指します。持続可能な世界の実現のために定められた世界共通の目標です。これは2000年から2015年にかけて進められた、「MDGs(ミレニアム開発目標)」が母体となっています。
では「持続可能な世界」とは一体どういうものなのでしょうか?
それは、今現在生活している私たちの要求を満たし、かつ、将来の世代が必要とする資産を損なうことのない社会のことです。
その実現のために、貧困から労働問題まで以下の17の目標が定められています。
詳しくは、日本SDGs協会のページに紹介されていますのでご参照ください。
-
日本SDGs協会 |
japansdgs.net
私たち日本人がSDGsにピンとこないのは、「貧困」「飢餓」といった私たちにとって身近でない、開発途上国向けの課題が大半が含まれているからだと考えられます。
私たちがローカルだと思っている社会問題は、視点のレイヤーを変えて国という単位で見ると全く違う世界の問題が浮き彫りになってくることがわかります。
落合さんは、現代の日本人は、明治維新以降の工業化の最中で、サステイナブルな考え方が希薄になっていると指摘しています。
そして、日本がこれから世界で戦っていくためには、このSDGsに対する取り組み方が大きなカギとなると述べています。
破壊的テクノロジーとGDP
第1章では、SDGsの考えに先立って、テクノロジーと人口の観点から2030年の近未来を考察しています。
テクノロジーを語るうえで欠かせないのが、5つの「破壊的テクノロジー」です。この言葉は1995年に経営学者のクリステンセンらが発表した概念で、それまでの価値観や社会の在り方を劇的に変化させる技術のことを指します。
これらかの未来を左右する5つの破壊的テクノロジーとは
- AIなどの機械学習関連技術領域
- 5G
- 自律走行(自動運転)
- 量子コンピューティング
- ブロックチェーン
自動化技術、通信技術の発展によって、私たちのライフスタイルは今までとは大きく変化することでしょう。それによってテクノロジーができる領域が拡大し、不可能なことが可能になったり、従来は人が行っていたことがロボットやドローンによって代替されることでしょう。5つの破壊的テクノロジーによって、どのような生活の変化が起こるのかを知っておくことは2030年を考察する上でとても重要になってきます。
人口も10年で大きく変化します。現在の人口トップは14億人を誇る中国ですが、今後日本と同様に急激な高齢化が進み、2030年はインドが世界一の人口となると予測されています。
インドは地理的な要因もあって、シリコンバレーのIT企業が次々と拠点を構築しています。このような成長曲線を描くインドは」、やがて世界を支える大きな経済大国となることでしょう。
また、この頃にはアフリカ諸国の人口も大きく増加するとされています。ナイジェリアやエチオピアは、インドに次ぐ経済発展を遂げることでしょう。
これによって各国のGDP(国内総生産)の序列も変化します。
2016年時点では、1位アメリカ、2位中国、3位日本となっています。しかし2030年には日本はインドに抜かれ4位に、さらに2050年にはインドネシアにも抜かれる予測がされています。
2020年代を牽引する4つのデジタル・イデオロギー
やがて訪れるデジタル社会を支配するイデオロギーには、4つのタイプが存在します。ここでいうイデオロギーとは、デジタルに対する地域ごとにの向き合い方を指します。
①アメリカン・デジタル
インターネット発祥の地であるアメリカを中心とした、GAFAM(Google・Amazon・Facebook・Apple・Microsoft)がリードするデジタルイデオロギーです。
②チャイニーズ・デジタル
アメリカン・デジタルと双璧をなす、中国独自技術によって構成されているものです。
③ヨーロピアン・デジタル
産業革命以降世界をリードしてきた欧州各国ですが、ドイツのBMWのような、今後純粋な技術力と伝統や文化を生かしたブランド力で価値を生み出すようなイデオロギーです。
④サードウェーブ・デジタル
インドやアフリカ諸国のような、21世紀に入って急激な経済成長が起こっている地域のイデオロギーを指します。近代化を経由していないので、デジタルへの意向が非常にスムーズであることが特徴です。
「貧困」「格差」と「サードウェーブ・デジタル」
第2章では、SDGsの目標の一つである「貧困」にフォーカスを当てています。
この「貧困」は、ただ食べるものがないという意味ではなく、今後の収入が見込めるかというような「未来の可能性」も指標に含まれています。
「貧困」というと、上のようなアフリカの子供が写っているようなイメージを持つ方が多いのではないでしょうか?
では、なぜアフリカ諸国が他地域と比べて発展が遅れてしまったのでしょうか?本書では、歴史的背景、地理的背景、国家システム的背景などが理由の一つに述べられています。
しかしこれらの国々も、デジタル化の波によって急激な成長が既に起きています。「近代化」を経由しない分、デジタル化による飛躍的成長のポテンシャルを秘めているのです。
例えば、日本では浸透に時間のかかった電子マネーも、ここでは国民全員の必須ツールとして普及しています。
そして「貧困」というものは決して途上国だけの問題ではありません。
先進国で所得を十分に得ていても、高い物価によって生活を維持できない「相対的貧困」非正規雇用での生活を余儀なくされている「シングルマザー」も、SDGsでは貧困の対象です。
この貧困から脱出する機会の一つが「教育」です。eラーニング、スタディサプリといったオンライン教育に代表される「開かれた教育」は、この格差を是正する大きなツールとなり得ます。
環境問題とGAFAMの「資本主義」
第3章は、環境問題について取り上げられています。
環境問題は、SDGsの中でも特にスケールの大きな話なので、一言に「CO2を減らそう」といっても中々イメージしにくいものだと思います。
本書ではこのような声に対して、可能な限り環境問題を個人のスケールで可視化できるようなたとえ、データがまとめられています。
日本は水不足とは縁のない国かもしれませんが、農産物や畜産物に必要な水資源「バーチャルウォーター(仮想水)」のことを考慮すると、日本は水が豊富どころか、諸外国から水を輸入している国ということになってしまいます。
このように、食糧生産に必要な耕作地や牧草地、生活のための燃料、道具の原材料、輩出した二酸化炭素を吸収するための緑地、といった、人間の活動に必要とされる土地を逆算すると、世界全体の人々の世界を支えるには既に地球が1.7個分必要な状況なのです。
もう他人事なんて言っていられません。私たちは今、人類が吸ったことのないような高濃度の二酸化炭素を吸って生きているのです。
そしてその環境問題のための各国の取り組みに対する地政学ですが、ここでもカギを握るのはアメリカと中国です。
中国は既に、太陽光パネルの技術力と生産力で圧倒的なシェアを誇ります。これを活かしたユーラシア大陸の巨大な電力ネットワークの構築も話にあがっています。
アメリカですが、国際的な影響力が強いのにも関わらず、2017年に赴任したトランプ大統領は、COP21で採択された「パリ協定」からの脱退を表明しました。
自国が原油産出国としての威信や、規制よりも技術のイノベーションによってエネルギー政策を作り、問題を解決しようという姿勢が表れています。これは先程紹介した「アメリカン・デジタル」の誕生も要因の一つとしてあげられるそうです。
SDGsとヨーロッパの時代
第4章では、SDGs成立の背景に隠れているヨーロッパ的な価値観と現在の産業構造そして日本のこれからの立ち位置について述べられています。
落合さんは、2020年代は、SDGsがもたらすパラダイムによって、ヨーロピアン・デジタルが今までよりも存在感を高め、世界の覇権を握る可能性を示唆しています。
ギリシア哲学とローマ法典の上に築かれたヨーロッパ文明は、国家や市場の権力を、抽象的な理念によって掌握しているとおっしゃっています。SDGsにはそのようなヨーロッパ特有の形而上な思想が背景にあるのです。
本書には、このようなダイアグラムが描かれていました。
ヨーロッパは「法と倫理」の層にあるパリ協定やESG投資、GDPR、そしてSDGsといった、包括的な理念を掲げることによって他の層を調停しているのではないかという見解を落合さんは示しています。
「GDPR(EU一般データ保護規則)」は、GAFAMの台頭を予期した布石ともいえます。
また本書では、ヨーロピアン・デジタル資本主義の例として、スイスの高付加価値・高賃金の社会システムを挙げています。
デジタルの時代に地元の人が高価なブランド機械式腕時計を購入するのは、製品本来の機能を超えたところに、伝統やブランドといった特殊な価値を付与し、商品の価格を上げているところにヨーロピアン・デジタルの真髄があると落合さんは述べています。
これからの日本の居場所ーデジタル発酵ー
では、日本は一体どこに属するのでしょうか。
毎日のニュースや情報番組では、日本のマイナスなところばかりがクローズアップされ、GDP世界3位の面影は感じられません。
古来より日本は独自の文化を継承し、諸外国の文化を部分的に取り入れてきた背景があります。しかし明治維新と敗戦以降、グローバリズムと市場原理にのまれ、金銭的価値を高める手法からコストと性能での勝負に切り替えました。
それも最近の新興国の台頭で、コストと性能で勝負する戦いは、既にレッドオーシャンであると言えます。
落合さんは、長い文化を持っているのにコスト競争に巻き込まれている現在の日本に強い危機感を示しています。
そしてその中で、高い付加価値を付けられる産業を模索し、ヨーロッパ・アメリカ・中国のどこにも属さない中間的立ち位置で熟成する「デジタル発酵」が大きな鍵であると述べています。
独自の歴史と文化、そしてそれをテクノロジーを用いて付加価値を上げていくことが、これからの日本にとっての理想的アプローチなのではないでしょうか。
感想
地政学という視点での近未来社会の考察は、今までにない独自の視点で非常に新鮮味があったように思います。
新たなことに手を付けるのではなく、今ある、元から備わっているポテンシャルを熟成させるという国の再興方法には、少なからず親近感を持った方も多いのではないでしょうか。
個人的な見解ですが、研究者として日々奔走している落合さんですが、実は意外なほど土着的で、日本的なマインドを持った方ではないかと感じました。
今まさに、未知なる感染症が世界を震撼させているように、世界の情勢は常に変化し続けています。私たちが学校で学んだ時と現代社会では、客観的な数値も、起こっている現象も大きく変わっています。本書は、そのような私たちの世界に対する認識を最新版にアップデートすることができると思います。
まとめ
今回は、落合陽一さんの『2030年の世界地図帳』の書評をお届けしました。
「落合さんの本を読んでみたいけど、どれから手を付けたらいいんだろう、、、」
こんな方におすすめできるのが本書『2030年の世界地図帳』だと思います。
「日本再興戦略」よりも言葉が易しく、それでいて「日本進化論」や「デジタルネイチャー」より専門的でなく、、
まさしく落合陽一への入門書といってもいい気がします。
これを機に、じっくりと落合さんの考え方に触れてみてもいいかもしれませんね。
気になった方はこちら
よろしければこちらの記事もあわせてご覧ください。
-
本 | RY-style
本と建築のあいだに生まれる暮らし
ry-style.com